ダークエンジェル本間 vol.4

お待たせいたしました。本領発揮か?!

我らが悠一朗先生、改めダークエンジェル本間参上。

先日書いた短編を再読。

3日間という短期間で仕上げたので粗も凄かったのですが、何となくいい感じぽかったので載せてみました。

昔使ったモチーフですが、【初めて「私」というものを意識した瞬間】という頂いたお題に沿っていたので再利用してみました。

(当時はだらだらと100枚以上も書いていたもんです。)

とりあえず半分まで載せとくので、もし続きにご興味おありの方はご連絡くださいませ。

※後編に続く

 

【曙光 ー前編ー】

 

雨上がりの国道は、月の光を浴びて薄絹のような輝きを放っていた。車の往来はまばらで、大の男五人をぎゅうぎゅうに詰め込んだ廃車寸前のシーマも自ずとスピードを増した。私は後部座席のドアに身を押し付けて、夜空に皓々と光を放つ満月を見上げながら、先刻のヘッドライト越しに見たKの青あざを思い出していた。

 

十七の頃の私は、終わりのない真夜中を延々と彷徨っていたように思う。

何不自由ない家庭に生まれ、別段の不満や欠損を抱えている訳ではないにも関わらず、中学で早々にドロップアウト。一度足を踏み外せば転がり落ちるのも早く、もといた日の当たる場所へは到底手は届きそうもない。高校三年生の夏ともなれば、周りは受験だなんだと慌ただしかったが、私が入学できた程度の学校から拓ける将来など高が知れている。私にできる事といえば、日の当たる場所で忙しく生きている者達に背を向けて、ドロップアウトした者同士で夜の闇に身を寄せ合い続けるくらいであった。

遠くから聴き慣れたバイクの走る音が近づいてくる。夕方まで降り続いていた雨は止み、アスファルトの窪みに生じた水溜りは夜空の月を映していた。私たちは営業時間を終えた近所のスーパーマーケットの駐車場に連夜の如く集まって、いつ終わるとも知れない駄弁に夢中となって日々の虚しさを紛らわせていた。

水溜りの月を割り、モーターを低く唸らせながらバイクが停まった。はっとして顔を上げると、運転していた友人Kの頬が薄明かりでもはっきり分かるくらい痛々しく腫れ上がっていた。聞くとここへ来る前、O先輩に呼び出されて手酷く“ヤキ“を入れられたようである。この辺り一帯をシメているO先輩に、前々から私たちは良く思われてはいなかった。それにも関わらず、私たちは連日連夜バイクを乗り回して相当派手に騒いでいたので、随分と機嫌を損ねていたらしい。

「今度ここらで調子乗ってたらマジ殺すから。」

Kから伝えられたO先輩の言葉は、私達を打ちのめした。金もない、成人にも満たないではどこか居酒屋に入る訳にもいかず、行くあてはなかった。かといって大人しく家に帰るには、私達の感情は余りに乱されていた。

「海行こっか。」

誰とはなしに発した言葉は、その場にいる全員の心を捉えた。海が見たかった。今から出れば、二時間も車を走らせれば茅ヶ崎のビーチに到着する。海開きにはまだ早いが、夜が明ければ日も照って気温も上昇する筈だ。こうして、私たちの真夜中の逃避行が始まった。

 

水嵩を増した茅ヶ崎の海は激しく坂巻いていた。黒々とした大波が打ちつけるたび轟音が辺りを領し、私達の臓腑を縮み上がらせる。さすがにこの荒れようでは海に入ろうとする者はいなかった。夜明けまではまだあと三時間ほどある。私達は各々仮眠を取るなどして自由に時間を潰す事にした。

乗ってきたシーマの中には入りきらないので、私とKは堤防に腰掛けて煙草を吸っていた。月明かりに波打つ海を眺めながら、青臭い将来の夢みたいなものを語り合っていたように思う。

「俺さぁ、」

傷口に煙が染みるのか、Kは顔をしかめながら細く息を吸い込みながら言った。

「やっぱ大検取って、大学受けてみる事にするわ。」

私は煙を吸い込みながら、Kの顔を覗き込む。

「いやさぁ、今付き合ってるのがすげえ頭良いから、受験の話とかされても何か立場がなくてさ。正直俺も高校中退ってのが結構コンプレックスだったりするし、これから先一緒になった時にも彼氏は学歴あるに越した事なくね?」

私は煙をぷっと吐き出すと、月を見上げながら言った。

「あぁ、いんじゃん。」

やはり海に来たのは正解だった。日頃の鬱憤を呑み込んで気持ちを穏やかにしてくれる。日の当たる場所には居場所がなく、夜の闇からも追われようとしている今、光への回帰を試みるのも悪くはない。私は吸っていた煙草をコンクリートの地面で揉み消すと、黒々とした波のうねりの先にある月明かりの道に思いを馳せた。

その時、背後から何か人影が近づいてくるのに気づいた。最初は仲間のうちの誰かかと思ったが、明らかに様子がおかしい。伸びっ放しの蓬髪は打ちつける波濤に煽られて激しく乱れ、やたらとよろめきながらこちらに迫ってくる。一見、着物に裸足という装いなので、本当に幽霊かと肝を冷やしたが、よく見ると入院着のようなものを身につけた老婆であった。

「あのう、すみません。」

老婆は、一際高い水飛沫を上げる突堤を指差しながら言った。

「あそこから私を突き落としてくれませんか。」

 

〈後編へ続く〉

 

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